僕がブラック企業に勤めていたとき、僕の通勤には三つの坂がありました。

家を出てすぐの上り坂、会社に着くちょっと前の下り坂、そして「まさか」です。

結婚スピーチだと、まさかって「まさか不倫…!? まさか事故!?」とかいうことなんですけどね。

通勤の「まさか」というのは、僕の場合「まさか通勤手当が出ないなんて!」ですよ。入社時には想像もしませんでしたね。

まさか、定期代など通勤費用が結構大きな金額になるなんて。しかもそれが自腹なんて!

薄給な身には、辛かったです。同じように通勤費用に悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

通勤費用に悩んだ挙句、誰もが考えるであろうことが「会社の近くに引っ越そう」ということですよね。

僕もそれを実践しました。

そして、さらなる「まさか」が待っていたんです…。

そうだ、引っ越そう。

偉い人が言いました。「通勤手当が無いなら、会社の近くに引っ越せばいいじゃない」と。

僕には最初、その考えが無くて、しばらくは電車で会社に通っていました。

通勤時間中は暇なので、音楽を聴いたり、妄想をしたりしてたんですよ。一番捗った妄想は、「このまま会社の最寄り駅で降りずに終点まで行ったらどうなるかな」です。

そんなもん、遅刻になって怒られるだけなんですけどね。

会社をサボって旨い飯でも食って孤独のグルメごっこをしてやろうかと、通勤中毎日のように考えてました。まあ、考えるだけで実行することはなかったんですけどね。

電車通勤には、妄想という楽しさがありますが、人が多くてしんどいですし、通勤費用もバカになりません。

ある日、会社の同僚に「通勤手当ぐらい出せよ」とボヤきました。

そしたら「この近くに住めよ」と鶴の一声。偉い人ではなく、会社の同僚の言葉だったわけですよ。

なるほど、その手があったか。妙案名案。うんうん。

頷きながら、会社の近くへの引越しを決意しました。

いざ引越し

そう遠くは無い距離とはいえ、引越しにはお金がかかるものです。なけなしの貯金を砕いて、引越しの初期費用にあてました。

学生時代バイトでコツコツ貯めたお金が、あぶくのように消えていく。南無三…!

しかも会社の近く家賃高ェーーー!
ヒョェェ。

当時住んでいた物件よりも悪い条件のところに引っ越さないと、家賃が値上がりしてしまう。わざわざ条件悪いところに引っ越すという、今思えばわけわからんことをしてましたね。

仕事をしながら、週一の休みを使って物件を見に行って、やっぱり条件の下がる物件に決定。

いざ、引越しじゃーい!

引っ越した結果

自転車での通勤が可能になりました。

なんと健康的なことか! 流れていく町並みが気持ちいいぞ!

通勤初日は、そんな風にテンションがあがって元気に会社に行ったものです。

ただ、その通勤初日に事件が起こりました。

会社に到着して意気揚々と挨拶をすると、上司がデスクにやってきて一言。

「近くに引っ越したんだってね」

そのときの僕は、なんにも考えず能天気に「はい!」と答えていました。周りの人たちは何かを察したように、わざとらしく僕のほうを見てきます。

なんだろうな、このムード。すごく居心地が悪いなあと思っていると、上司からさらにもう一声。

「だったら、今日から終電とか気にしなくていいわけだ」

…あっ(察し)。

その日もいつも通り残業タイムに突入。

以前なら終電だった時間を過ぎて帰ろうとしていると、上司が再びデスクにやってきました。

「もう少し残れるよね?」

まさか、会社の近くに引っ越したら終電過ぎても残業することになるなんて!!

なんという酷いオチだろうか。これが舞台かお笑いライブならブーイングの嵐だ。

自転車通勤で健康的? なんておめでたいんだ。深夜まで残業させられて不健康的じゃないか…。

これからの毎日が地獄になるのだと気づき、僕の脳内のお花畑が一斉に枯れていくような気がしました。

しかしながら、会社の近くに引っ越さずに通勤費用を払うのと、会社の近くに引っ越して残業時間が少し延びるのと、どっちが良かったのかと問われると難しいところです。

お金を使う時間と金額が減ったので、貯金はできましたが、手放しに良かったと言えませんよね。

通勤費用だったお金が浮いた分、転職前に一人旅に行く資金が貯まってたのかもしれないなと好意的に捉えてはいます。

でもやっぱり…残業が長くなるのは辛い。

通勤手当が無いから会社の近くに引っ越すのって、すごく一長一短ある策なんですよね。