住宅手当というのは、基本的かつ大事な手当ですよね。これの有無で、気分的にも金銭的にも大きく変わってきます。

ただ、この住宅手当を支給しない会社が増えているんですよ。

当たり前のようにあった福利厚生が、突如として消える。

そんな馬鹿なと、笑っていた時期が僕にもありました。

そういう話は聞いてはいたものの、自分の身に降りかかってくるとは思ってなかったんです。

通勤手当が無い職場だったので、まさか住宅手当まで廃止するとは想像もしませんでした。

しかし、いつも通り仕事をしようと出社したある日、事件が起きたんです。

住宅手当を廃止します。

会社の偉いさんがたがいきなり僕のいた部署にやってきて、「大事な話があるから聞くように」と言いました。お偉いさんがたが言う「大事な話」ですから、悪いことに決まってます。

嫌だなあ、今度はなんだろう。給料削減とか、部署全体の経費削減とかかなあ。

色々考えながら手を止めて、話を聞く体制に入りました。全員がお偉いさんの顔を見ると、お偉いさんは満足げに咳払いをして話を始めます。「単刀直入に…」とても神妙な声でしたが、その奥には嘲笑のような感情も透けて見えるような、複雑な声でした。

「住宅手当を廃止します」

ジュウタクテアテヲハイシ?

なんか呪文めいた言葉が聞こえた気がするぞ!? 混乱していると、また次の宣言がなされました。

「その代わり、社員寮を建てます!」

喜べと言わんばかりの明るい声で、「社員寮を建てます」と宣言。

住宅手当が無くなる代わり、社員寮を建てることで社員にできるだけ損をさせないようにする施策かと、最初は思いました。

会社側にも損はないだろうけど、果たしてこの施策に意味があるのかなと疑問を感じたとき、会社の本意に気づいたんです。

これは、悪魔的な施策だ!

会社の真の目的とは

会社の目的は、ただひとつ。

会社の近くに社員寮を建ててそこに社員を住まわせることで、終電過ぎまで残業をさせること。

住宅手当が廃止になるけど、社員寮に入ると住宅手当以上にお金が浮く。

住宅手当の金額は少なかったので、それよりも社員寮の安い家賃のほうが魅力的に見えることでしょう。

あたかも従業員のことを考えているように聞こえますよね。

その甘言で社員を釣り上げたところを、じっくりと料理してやるという魂胆。これは悪魔的所業。

こんなの、入る奴いないだろ。

僕は半ば笑いながら腕組みしていましたが、実際には入る人が結構いました。騙されていることに気づいていないのか、気づいた上で入寮したのか…。

待て、それは孔明の罠だ!

そう言いたい気持ちがありましたが、自分が入寮しなければいいやと思って他人の入寮を止めることはしませんでした。

気づいていた何人かは、「馬鹿だよなあ」と言ってましたね。僕も、その輪の中に入ってましたよ。

まあ、こういう悪魔的施策でなくとも、僕は入寮しなかったでしょうね。プライベートな空間が無いというのは辛いです。

どうして仕事の後にも職場の連中と顔を合わさなければならないんだ、と。

社員寮より住宅手当のほうがいいに決まってるでしょ。

社員寮は中身も最悪だった

入寮した人に聞いたところでは、社員寮はあまりにも酷い環境だったようです。

まず、壁が薄い。

隣人がスピーカーで音楽をかけようものなら、「これはギターの音」「これはドラム」と楽器の聞き分けができるほどハッキリと聞こえてくるらしいです。歌だったら、耳を澄ませば歌詞までわかるのではないかというくらい。

電話なんてしようものならもう、会話が筒抜け。

朝は、左右からいろんな目覚ましの音が聞こえる。もちろん、異性の友達や恋人を呼ぶことができない。

共用スペースの掃除当番が交代制で決められていて、どれだけ疲れていても強制的に掃除させられる…。

水道光熱費込みで家賃は安かったらしいですが、決していい環境ではなかったようです。壁が薄すぎてノイローゼになる人もいたのだそう。

まるで魔境!!

いやあ、入寮しないで正解でしたよ。終電過ぎまで仕事させられた挙句、家に帰っても心休まらないのでは何のために生きているのかすらわからなくなりかねません。

僕は自分の家に帰って静かに眠り、起きることができる。当たり前のことですが、それも幸せなんだなと気づかされました。

まあ、結局、この後引っ越して終電過ぎまで残業するハメになるんですけどね。